ヒトパピローマウイルス感染症について

(1)どんな病気でしょうか

 ヒトパピローマウイルス(HPV)は皮膚や粘膜に感染するウイルスで,100以上の種類に分類されています。これらのうち主に粘膜に感染する種類は,性行為を介して生じる表皮の微小なキズから,生殖器粘膜に侵入して感染するウイルスであり,海外においては性活動を行う女性の50%以上が,生涯で一度は感染すると推定されています。
 粘膜に感染するHPVのうち少なくとも15種類は子宮頸がんから検出され,「高リスク型HPV」と呼ばれています。高リスク型HPVの中でも16型,18型と呼ばれる2種類は特に頻度が高く,海外の子宮頸がん発生の約70%に関わっていると推定されています。また,子宮頸がん以外にも,海外において少なくとも90%の肛門がん,40%の腔がん・外陰部がん・陰茎がんに関わっていると推定されています。その他,高リスク型に属さない種類のものは,生殖器にできる良性のイボである尖圭コンジローマの原因となることが分かっています。

(2)ワクチン接種について

 現在,接種できるワクチンは3種類(薬品名「サーバリックス」・「ガーダシル」・「シルガード9」)あります。どちらのワクチンを接種しても高リスク型HPV16型,18型の感染を防ぐことができますが,全ての高リスク型HPVの感染を防ぐことはできません。また,接種時にすでに高リスク型HPVに感染している人に対して,ウイルスを排除したり,発症している子宮頸がんや前がん病変の進行を遅らせたり,治療したりすることはできません。
 なお,原則1回目に接種したHPVワクチンを,2回目,3回目も接種してください。
【接種方法】
<定期接種対象者>
小学6年生から高校1年生に相当する年齢(望ましい時期は,中学1年生)の女子
<キャッチアップ接種対象者>
1997年(平成9年)4月2日生まれ~2007年(平成19年)4月1日生まれのHPVワクチン未接種の女子
<サーバリックス>
1回目接種後,1か月後に2回目を,1回目接種後,6か月後に3回目を接種
(この接種方法をとることができない場合は,1回目接種後,1か月以上の間隔をおいて2回目を接種し,2回目接種後,3か月以上の間隔をおいて3回目を接種する。)
<ガーダシル・シルガード9>
1回目接種後,2か月後に2回目を,1回目接種後,6か月後に3回目を接種
(この接種方法をとることができない場合は,1回目接種後,1か月以上の間隔をおいて2回目を,2回目接種後,3か月以上の間隔をおいて3回目を接種する。)
※シルガード9を15歳未満で接種開始した場合は,6か月後に2回目を接種
(この接種方法をとることができない場合は,1回目接種後,5か月以上の間隔をおいて2回目を接種する。)

(3)ワクチンの副反応について

 主な副反応は,発熱や,局所反応(疼痛,発赤,腫脹)です。また,ワクチン接種後に注射による痛みや心因性の反応等による失神があらわれることがあります。失神による転倒を避けるため,接種後30分程度は体重を預けることのできる背もたれのあるソファに座るなどして様子を見るようにしてください。
 まれに生じる重い副反応としては,アナフィラキシー様症状(ショック症状,じんましん,呼吸困難など),ギラン・バレー症候群,血小板減少性紫斑病(紫斑,鼻出血,口腔粘膜の出血等),急性散在性脳脊髄炎(ADEM)等があります。
 副反応の疑いとして,ワクチンを接種した後に,広い範囲に広がる痛みや,手足の動かしにくさ,不随意運動(動かそうと思っていないのに体の一部が勝手に動いてしまうこと)などを中心とする多彩な症状が起きたことが報告されています。この症状は機能性身体症状(何らかの身体症状があり,その身体症状に合致する検査上の異常や身体所見がみつからず,原因が特定できない状態)であると考えられています。ワクチンを接種した後や,けがの後などに原因不明の痛みが続いたことがある方はこれらの状態が起きる可能性が高いと考えられているため,接種について医師とよく相談してください。なお、「HPVワクチン接種後の局所の疼痛や不安等が機能性身体症状をおこすきっかけとなったことは否定できないが,接種後1か月以上経過してから発症している人は,接種との因果関係を疑う根拠に乏しい」と専門家によって評価されています。また,HPVワクチン接種歴のない方においても,HPVワクチン接種後に報告されている症状と同様の「多彩な症状」を有する方が一定数存在したこと,が明らかとなっています。

(4)予防接種による健康被害救済制度について

○定期の予防接種によって引き起こされた副反応により,医療機関での治療が必要になったり,生活に支障がでるような障がいを残すなどの健康被害が生じた場合には,予防接種法に基づく補償を受けることができます。
○健康被害の程度等に応じて,医療費,医療手当,障害児養育年金,障害年金,死亡一時金,葬祭料の区分があり,法律で定められた金額が支給されます。死亡一時金,葬祭料以外については,治療が終了する又は障がいが治癒する期間まで支給されます。
○ただし,その健康被害が予防接種によって引き起こされたものか,別の要因(予防接種をする前あるいは後に紛れ込んだ感染症あるいは別の原因等)によるものなのかの因果関係を,予防接種・感染症医療・法律等,各分野の専門家からなる国の審査会にて審議し,予防接種によるものと認定された場合に補償を受けることができます。
○対象年齢を過ぎて接種を希望する場合は,予防接種法に基づかない接種(任意接種)として取り扱われます。その接種で健康被害を受けた場合は,独立行政法人医薬品医療機器総合機構法に基づく救済を受けることになりますが,予防接種法に比べて救済の額が概ね二分の一(医療費・医療手当・葬祭料については同程度)となっています。
※給付申請の必要が生じた場合には,診察した医師,又は保健所保健予防課へご相談ください。

(5)接種できない人

① 発熱している人(一般的に37.5℃以上の場合)
② 急性疾患にかかっている人
③ 予防接種を受けてアレルギー反応や異常な副反応を起こしたことがある人
④ 医師が不適当な状態と認めた人

(6)受けるにあたって

① 医療機関で必ず体温を測定し,診察を受けてから接種します。
② 予診票は接種してもらう医師への大切な情報でも責任をもって記入してください。
③ 接種後は,接種部位を軽く押さえ,もまないようにしてください。
④ 接種当日は,激しい運動はさけてください。当日の入浴はかまいませんが,注射した部位をこすらないようにしてください。
※予防接種を受けたあとは、重いアレルギー症状や血管迷走神経反射として失神することがありますので、30分間は医療機関で座って安静にし、お子さんの様子を観察してください。
※接種後,接種部位の異常な反応や体調の変化があった場合は、速やかに医師の診察を受けましょう。
13歳以上の者に接種する場合に限り,保護者がこの説明書を読み理解し納得してお子様に予防接種を受けさせることを希望する場合には,予診票裏面の同意書に署名することによって,保護者が同伴しなくても接種することができます。接種当日に同伴が難しい場合は,保護者が署名した予診票(表面の保護者記入欄及び裏面の保護者自署欄)を必ずお子様に持参させてください。
予防接種にもどる